2026/11/07
入れ歯治療
矯正治療
監修:黒崎 俊一(くろさき歯科 院長)
日本歯科専門医機構 補綴歯科専門医/日本補綴歯科学会 専門医/歯学博士/日本大学 非常勤講師。臨床経験30年以上。入れ歯・被せ物など、失った歯の機能回復を専門としています。
「自費の入れ歯は高額だから、医療費控除の対象にならないのでは?」
「大人の歯列矯正でも医療費控除は使えるの?」
「100万円の入れ歯を作ったら、税金はいくら安くなる?」
歯科治療を検討する際、治療内容と同じくらい気になるのが費用の問題ではないでしょうか。特に自費診療の入れ歯や歯列矯正は、数十万円から100万円以上の費用がかかることもあります。
そこで知っておきたいのが、医療費控除という制度です。実は、保険診療だけでなく、自費診療の入れ歯や大人の歯列矯正も、一定の条件を満たせば医療費控除の対象になります。
この記事では、補綴歯科専門医の監修のもと、医療費控除の仕組みから、自費の入れ歯・大人の矯正の取り扱い、年収や年金生活などケース別の節税額の計算例まで、わかりやすく解説します。
この記事のポイント

医療費控除とは、1月1日から12月31日までの1年間に支払った医療費が一定額を超えた場合に、所得から所定の金額を差し引くことができる制度です。医療費控除を受けると、所得税や翌年度の住民税の負担が軽減される場合があります。
医療費控除額は、次の式で計算します(上限200万円)。

※総所得金額等が200万円未満の方は「10万円」ではなく「総所得金額等の5%」を差し引きます。
つまり、年金収入が中心の方や所得が少ない方は、年間の医療費が10万円に届かなくても医療費控除を受けられる場合があります。
ただし、注意していただきたいことがあります。医療費控除は、支払った治療費がそのまま戻ってくる制度ではありません。
例えば、年間100万円の医療費を支払い、保険金などによる補填がなく、差し引く基準額が10万円の場合、医療費控除額は90万円です。この90万円が返金されるわけではなく、税金を計算する際の所得から90万円が差し引かれます。実際に軽減される税額は、その方の所得や適用される税率によって異なります。
結論から申し上げると、自費診療の入れ歯も、医療費控除の対象になり得ます。
医療費控除は、保険診療か自費診療かという区分だけで決まるものではありません。治療を目的とした歯科診療であり、費用が一般的な水準を著しく超える特殊なものではない場合、対象になるとされています。例えば、次のような入れ歯治療が考えられます。
自費の入れ歯は、使用する材料や製作工程、治療方法によって費用が異なります。高額だからという理由だけで、医療費控除の対象外になるわけではありません。ただし、すべての自費診療が無条件に対象になるわけではないため、個別の費用については税務署などへの確認が必要です。
例えば、100万円の自費の入れ歯を製作した場合も、医療費控除の対象となる条件を満たしていれば、申告することができます。
ここで重要なのは、入れ歯の価格が100万円だからといって、100万円の税金が戻るわけではないということです。実際にどの程度の税負担が軽減されるのか、4章で具体的な計算例をご紹介します。
なお、入れ歯は費用だけでなく、お口の状態に合っているかどうかが何より大切です。今の入れ歯や治療計画に迷いがある方は、こちらの記事もご覧ください。
歯列矯正は、治療の目的によって取り扱いが異なります。国税庁は、歯列矯正を受ける人の年齢や矯正の目的などからみて、歯列矯正が必要と認められる場合の費用は医療費控除の対象になるとし、一方で、容ぼうを美化するための費用は対象外としています。
「大人の矯正は見た目のためだから対象外」と思われがちですが、年齢だけで判断されるわけではありません。
歯科医師の診査・診断によって、不正咬合(噛み合わせの異常)があり、噛む・話すなどの機能を改善するために矯正治療が必要と判断された場合は、大人の歯列矯正であっても医療費控除の対象になると考えられます。
不正咬合には、例えば次のような状態があります。

こうした歯並びの状態は、見た目だけでなく、食べ物を噛み切りにくい、特定の歯に負担が集中する、歯みがきがしにくく虫歯や歯周病のリスクが高まる、といった機能面の問題につながることがあります。
一方、機能面に問題がなく、歯並びを美しくすることだけを目的とした矯正治療は、医療費控除の対象外です。
大切なのは「大人か子どもか」ではなく、「治療上の必要性があるかどうか」です。
医療費控除の申告時に、歯科医師の診断書の提出は求められていません。ただし、税務署から治療の目的を確認される場合に備えて、不正咬合などの診断内容がわかる書類があると説明しやすくなります。矯正治療を始める際に、担当の歯科医師に相談しておくと安心です。
実際の取り扱いは個別の治療内容によって異なりますので、最終的な判断は所轄の税務署にご確認ください。
医療費控除を考える際、最も気になるのが実際の節税額でしょう。ここでは3つのケースで計算してみます。

次の条件を仮定します。
この場合、所得税率によって節税額は次のように変わります。
| 所得税の限界税率 | 所得税・復興特別所得税の軽減額(概算) | 住民税の軽減額(概算) | 合計 |
|---|---|---|---|
| 5% | 約4.6万円 | 約9万円 | 約13.6万円 |
| 10% | 約9.2万円 | 約9万円 | 約18.2万円 |
| 20% | 約18.4万円 | 約9万円 | 約27.4万円 |
| 23% | 約21.1万円 | 約9万円 | 約30.1万円 |
※所得税の限界税率が控除の前後で変わらず、控除額の全額を税額軽減に利用できる場合の概算です。復興特別所得税を含み、住民税の所得割を10%として計算しています。実際の節税額は課税所得や各種控除、税額控除などによって異なります。
例えば、所得税の限界税率が20%の方であれば、所得税と住民税を合わせて約27万円の負担軽減につながる計算です。
次の条件を仮定します。矯正費用は、当院の矯正治療費(88万円〜・税込)を例にしています。
| 税金の種類 | 控除前の課税所得 | 控除後の課税所得 | 軽減額(概算) |
|---|---|---|---|
| 所得税(復興特別所得税含む) | 約81万円 | 0円 | 約4.1万円 |
| 住民税(所得割10%) | 約142万円 | 約57万円 | 約8.5万円 |
| 合計 | 約12.6万円 |
※令和8年分の所得税の基礎控除(104万円)、住民税の基礎控除(43万円)で計算した概算です。社会保険料は仮定の金額です。
このケースでは、医療費控除額(約85万円)が所得税の課税所得(約81万円)を上回るため、所得税はゼロになり、それ以上は軽減されません。一方、住民税は基礎控除が小さいため、控除額の約1割がそのまま軽減されます。年収が高くない方ほど、住民税の軽減が大きな割合を占めるのが特徴です。
なお、矯正費用の支払いが複数年にまたがる場合は、支払った年ごとに申告し、それぞれの年で「10万円」の基準額が差し引かれます。
次の条件を仮定します。
| 税金の種類 | 控除前の課税所得 | 控除後の課税所得 | 軽減額(概算) |
|---|---|---|---|
| 所得税(復興特別所得税含む) | 約21万円 | 0円 | 約1.1万円 |
| 住民税(所得割) | 約82万円 | 0円 | 約8万円 |
| 合計 | 約9万円 |
※令和8年分の税制で計算した概算です。住民税は調整控除を考慮しています。均等割(定額部分)は医療費控除では軽減されません。社会保険料は仮定の金額です。
年金生活の方は所得税の負担がもともと少ないため、所得税の軽減はわずかです。しかし、住民税の負担が大きく軽減されるため、医療費控除を申告する価値は十分にあります。
また、公的年金の収入が400万円以下などの条件を満たし「確定申告不要」とされている方でも、医療費控除を受けるには申告が必要です。一方、年金収入が少なく所得税・住民税がもともと課税されていない方は、申告しても軽減される税金はありません。
もちろん、すべての方がこれらの金額の軽減を受けられるわけではありません。しかし、医療費控除の仕組みを知っておくことは、高額な歯科治療の費用を検討するうえで大切です。
医療費控除では、自分自身の医療費だけでなく、生計を一にする配偶者や親族のために支払った医療費も対象になります。例えば、次のようなケースです。
それぞれの治療費が医療費控除の対象となる場合、同じ年に支払った費用を合算して申告できることがあります。
なお、「生計を一にする」とは、必ずしも同居していることだけを意味しません。別居していても、生活費などを継続的に負担している場合には該当することがあります。
例えば、年金生活の親の入れ歯代を、生計を一にする子どもが実際に支払った場合は、子どもの医療費控除として申告できます。子どもの所得税率が親より高ければ、ケース3より大きな軽減になることもあります。
ただし、医療費控除を申告できるのは、原則としてその医療費を実際に支払った方です。家族の中で所得が高い人が自由に医療費をまとめて申告できる、という制度ではない点に注意してください。
高額な歯科治療では、デンタルローンを利用する方もいらっしゃいます。
デンタルローンを利用して歯科医院への治療費を信販会社が立て替え払いした場合、その立て替え払いが行われた年の医療費として、医療費控除の対象になることがあります。ただし、ローンの金利や手数料は医療費控除の対象にはなりません。
また、歯科医院に直接分割で支払う場合は、原則として実際に支払った年ごとに申告することになります。支払い方法によって控除を受ける年が異なることがありますので、治療費が高額になる場合は事前に確認しておくとよいでしょう。
歯科医院に通院するための交通費も、一定の条件を満たせば医療費控除の対象になります。例えば、電車やバスなどの公共交通機関を利用した場合の交通費です。
一方、自家用車で通院した場合のガソリン代や駐車場代は、原則として対象になりません。タクシー代についても、公共交通機関の利用が困難であるなど、やむを得ない事情がある場合に限られます。
通院時の交通費については、日付や経路、金額などを記録しておくと申告時に役立ちます。
医療費控除は、会社員の方でも年末調整では手続きできません。控除を受けるには、原則として確定申告が必要です。一般的な流れは次のとおりです。

現在は、国税庁の「確定申告書等作成コーナー」やe-Taxを利用して申告することもできます。
また、医療費の領収書は原則として確定申告書に添付する必要はありませんが、5年間の保存が必要です。歯科医院で受け取った領収書は、捨てずに保管しておきましょう。
はい。保険診療の入れ歯も医療費控除の対象になります。ただし、年間の医療費や所得などによって、実際に控除を受けられるかどうかは異なります。
治療を目的としたもので、費用が一般的な水準を著しく超える特殊なものではない場合、対象になり得ます。金額だけで一律に対象外となるわけではありません。
噛む機能の回復を目的としたインプラント治療は、一般的に医療費控除の対象になり得ます。入れ歯と同じく、自費診療であることだけを理由に対象外になるわけではありません。
確定申告の際に診断書の提出は求められていません。ただし、税務署から治療の目的を確認された場合に備え、噛み合わせの異常などの診断内容がわかる書類があると説明しやすくなります。必要に応じて担当の歯科医師にご相談ください。
はい。医療費控除に年齢制限はありません。ただし、所得税や住民税が課税されていない場合などは、控除を申告しても税負担が軽減されないことがあります。
はい。年金収入のある方も、所得や納税状況によって医療費控除を利用できます。総所得金額等が200万円未満の方は、年間の医療費が10万円以下でも、総所得金額等の5%を超えていれば対象になります。
できません。同じ年について、医療費控除とセルフメディケーション税制(特定の市販薬の購入費を対象とする特例)は、どちらか一方を選んで申告します。歯科治療費が高額な年は、通常の医療費控除のほうが有利になることが多いでしょう。
医療費控除額の上限は、1年間で200万円です。
確定申告をする義務がない方が医療費控除による還付申告を行う場合、原則として対象年の翌年1月1日から5年間申告できます。すでに確定申告を済ませている場合は、別途、更正の請求などの手続きが必要になることがあります。
院長より

入れ歯や矯正治療は、費用への不安から相談をためらわれる方も少なくありません。医療費控除は、そうした負担を考えるうえで知っておきたい制度の一つです。ただ、制度があるから高額な治療を選ぶ、ということではなく、まずはご自身のお口の状態を正確に知り、納得できる治療方法を選んでいただくことが何より大切だと考えています。
くろさき歯科 院長 黒崎 俊一(日本歯科専門医機構 補綴歯科専門医)
入れ歯や歯列矯正は、費用だけでなく、治療の目的や方法、治療後の管理なども考えて選ぶことが大切です。特に自費診療では、治療方法によって費用が大きく異なる場合があります。
医療費控除は、そうした治療費の負担を考えるうえで役立つ制度の一つです。ただし、医療費控除を受けられるからといって、必ずしも高額な治療を選ぶ必要はありません。
大切なのは、ご自身のお口の状態に合った治療方法を理解し、費用についても納得したうえで選択することです。
くろさき歯科では、入れ歯や歯列矯正について、患者さんのお口の状態やご希望を踏まえながら、治療方法をご説明しています。
「自費の入れ歯を検討しているけれど、費用が気になる」
「今の歯の状態では、どのような治療方法が考えられるのだろう」
「噛み合わせが気になる。歯列矯正が必要なのか、一度相談してみたい」
このようなお悩みをお持ちの方は、お気軽にご相談ください。
この記事は、2026年11月時点の一般的な税制(令和8年分)に基づく情報提供を目的としています。計算例は一定の条件を仮定した概算であり、個別の治療費が医療費控除の対象になるかどうかや、実際の節税額について、当院が保証するものではありません。税務上の最終的な判断については、所轄の税務署または税理士にご確認ください。
Contact
お口の健康に関するお悩みや疑問を、ご相談ください。
くろさき歯科の専門家が親身になってお話を伺い、一人ひとりに最適な治療方法をご提案いたします。
お気軽にご予約ください。